2020/8/1(土) チャリティイベント「96卒上場企業経営者に聞く 上場とは」がZOOM開催されました
多数の経営者を排出し、社長数ランキングに毎回登場している我が慶應義塾。現在、日本国内の上場企業数は約3,700社ありますが、そのなかに96卒の仲間が社長をしている企業も複数あります。今回は、東証マザーズ/一部上場企業の代表を務める96卒の同期3名を囲んで、「上場」への思いについて聞いていきます。
ファシリテーター:弘井澄子(96総) WMパートナーズ株式会社マネージャー
96年総合政策学部卒。ベンチャーキャピタル(VC)、事業会社を経てまた投資の世界へ。パネリストの五十嵐さんとは新卒1社目で同期入社。柳澤さんはSFCで友人。
■登壇者のそれぞれプロフィール紹介
――今回集まってもらった3名は、96卒で現在上場企業の代表を務めているという共通点を持っていますね。まずは自己紹介からお願いします。
柳澤
面白法人カヤックの代表取締役CEO、柳澤大輔です。慶應義塾大学の環境情報学部に在籍し、1996年に卒業しました。その後ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社し、2年後に大学時代の友人3人とともに現会社を設立しました。2014年にはマザーズ上場を果たし、さまざまなサービスを提供・運営しています。一緒に創業した3名の持株比率は3等分で、3名全員に代表権があります。上場以来まだ誰も株を売却していないという、珍しい形でやっているのも特徴です。
五十嵐
株式会社クロス・マーケティンググループ代表取締役社長兼CEOの五十嵐幹です。96年に経済学部を卒業後、ベンチャーキャピタルに入社、その後ネット企業の創業、取締役就任を経て、2003年に株式会社クロス・マーケティングを設立し、代表取締役を勤めています。同社は2008年東証マザーズ上場、2018年に東証一部上場を果たしました。
従業員数は連結で1,866名、グループ会社は29社あり、主に市場調査、システム開発、ITソリューション事業、デジタルマーケティング事業を行っています。
岩田
クックパッド株式会社代表取締役社長の岩田林平です。3歳から13歳までアメリカに住んでいた帰国子女で、慶應義塾には大学から入っています。
お二人とは違い、代表取締役を勤めるクックパッドは僕が創業した会社ではなく、僕は3代目の社長です。
もともとは銀行員をやっており、その後ビジネススクールに留学、卒業後はコンサルを10年経験し、現職を勤めることになりました。
クックパッドは2本社体制をとっていて、日本のほかにイギリスにも拠点があり、僕も現在はイギリスに住んでいます。
■塾生時代の思い出
――それぞれ上場企業の代表を務めているわけですが、学生時代はどのように過ごしていましたか?
五十嵐
勉強以外は一通り経験する、という学生時代でしたね(笑)。ラグビーサークルに麻雀、飲み会…とにかくいろんな経験をしながら、自分探しをしていたなと今、振り返って思います。
岩田
最初に2年間の日吉キャンパス時代は、野球サークルに明け暮れていましたね。その時のマネージャーが今の妻です(笑)。三田キャンパスに移ってからは、少し真剣に勉強しないとと考えて、経済学の大山ゼミに入ったり、図書館に引きこもってとにかく勉強したりしていましたね。といっても優等生だったわけではなく、どちらかといえば落ちこぼれで、ついていくのに必死でした。
柳澤
僕は高校から慶應でした。大学時代は、平日は雀荘に行ったり、ニューラルコンピューティング、今でいうAIを専攻していたんですが、それで競馬の予想プログラムを作ったりしていましたね(笑)。起業するために勉強に励んでいたというわけではないですが、比較的真面目に通っていたかなと思います。
■社会に出てから今まで
――三者三様ですね(笑)。卒業して社会に出てからはどうですか?岩田さんは初めに銀行に入行されたんですよね。
岩田
はい、今はなき三和銀行という、比較的アグレッシブな銀行に入行し、そこで7年半を過ごしました。まずは支店に配属され、不景気が進む中で融資の回収を行っていました。その後、当時の日本輸出入銀行に出向し、そこでJBIC(国際協力銀行)の合併を経験しました。出向先では主に中東アフリカを担当し、アルジェリア、チュニジア、イランなどイスラム圏の方向けの融資を約2年ほど行いました。
銀行を辞めた後はノースウェスタン大学に留学し、卒業後マッキンゼーに入社、約10年勤めました。入社から10年経ち、転職を考えていた時にお話をいただき、クックパッドに入社したという流れです。キャリアを通して言えることですが、計画的にキャリアを考えて進めてきたというよりは、偶然が重なってこうなった、というところが大きいですね。
――柳澤さんと五十嵐さんはご自分で会社を創業されていますね。
柳澤
そうですね。ただ二人が銀行やベンチャーキャピタルからキャリアを始めているのに比べると、僕は卒業して2年後には友人と起業しようと決めていたため、就職活動は真剣に考えていなかったなと思います…「ネクタイをしなくてもいい会社が良い」とか(笑)。卒業後はソニー・ミュージックエンタテインメントで商品企画を担当していましたが、2年で退職し、約束通り友人3人で現会社を設立しました。当時は売り上げもなく、給料が一人5万円、しかも結婚して子供も生まれるというスタートで、なかなか大変でしたね。「そもそも会社って何?」というところから、一つ一つ研究しながら進めてきた感じです。
2009年に新卒採用を開始したんですが、「新卒採用=来年も会社があるという確約」でもあるので、そのタイミングで事業戦略や計画を本格的に立て始めました。同年にあるサービスが当たり、そこから3年半で上場しました。
――学生の頃には会社作ると思ってなかった?
柳澤
小学生の文集には「将来の夢は社長だ」と書いていましたね。大学時代もやりたいとは思っていましたが、計画的に進めていたというよりは、たまたま創業仲間の3人ともが起業に向けて動いていたという感じです。
五十嵐
僕もいつかは独立したいと思ってはいました。ベンチャーキャピタルでいろいろな経営者を見ていくうちに、より独立したい気持ちが強まっていき、ネットバブルという流れにも後押しされ、26歳のときに起業しました。
そのとき創業したネット会社ではネットメディアの運営を行っていましたが、すぐに「資本金は集まるが集客が難しい」という壁にぶち当たりました。ネット広告だけでは生き残れない、多角化しなければと決心し、いろいろ手を出しました。そこで手ごたえを得て、改めて自分の力でやってみようと思い、29歳の時に現会社を設立したんです。
――創業時から上場は目指していたんですか?
五十嵐
上場の前に、まずは資本金――お預かりしたお金で、しっかり利益を出していこうと考えていました。
柳澤
僕も同じく、上場だけが目的になってしまうのは意味がないと思っていましたね。
■上場の意義
――なるほど。結果としてお二人とも上場を果たされましたが、上場してみてよかったこと、悪かったことはありますか?上場したからこそできることもあるはずですが、逆にやりづらくなることもあると思います。
柳澤
上場して数年なので、上場した醍醐味のようなものは、まだ味わい尽くしてないかなとは思います。ただ、「会社とは何か」「経営者とは何か」ということは常に考えていて、できるだけ言語化するように努めてきました。僕が思うのは、上場企業の経営者は、資本を増やしたり雇用を拡大したり、会社を大きくするということを楽しめる人でないといけないということです。
五十嵐
おっしゃる通りですね。小さなメリット…例えば住宅ローンが組めるだとか、クレジットカードが作れるだとか、個人の信用という意味では、上場企業に勤めているというのは素晴らしいことだと思います。経営者という観点でいうと、会社を上場させることによって、個人ではなく資本市場の中で大きな意思決定ができるようになる、というのは、会社を大きく成長させていくうえで非常に意味があると考えています。
――岩田さんはコンシューマ向けの会社ですが、上場企業であることによるメリット・デメリットは感じますか?
岩田
僕の場合、入社時点ですでに一部上場していたので前後比較というのはなかなかできませんが、海外での採用では上場が役に立っていると感じますね。海外ではまだ誰も知らない、しかも日本企業というある意味不利な状態で、会社として一定の情報公開があるのは明らかなメリットです。
一方で、上場しているからこその期待――会社としてこうあるべき、というプレッシャーももちろんあります。ただし、我々の会社は、ミッションの実現が何よりも重要と考える理念追求型の企業です。普通の会社なら売り上げや利益が先に来るところでも、ミッションの実現や将来の成長という視点を最優先して決断する点が、ほかの上場企業とは違うところですね。
五十嵐
僕は、お金を預かっている責任がある以上、会社を成長させてリターンを返す、あるいは安定配当型で還元する、という枠組みは軽視できないと考えています。株式という枠組みがあるからこそ、誰もが参加できるわけですから。
柳澤
会社に値段がつく、価値がはっきりするというのは分かりやすいですよね。
岩田
上場という仕組みが物事のながれを良くしているのは事実ですね。その中で何を優先するのか、というのが会社のカラーにもつながるのだと考えています。
■締め
それぞれ異なる学生時代を経て、特色ある企業を経営する3名。対談後の意見交換では、「上場を止めたいと思ったことは?」といったきわどい質問も飛び交いました。ここでしか聞けない貴重な対談、ありがとうございました!